紅萌ゆる

土屋祝郎 岩波新書 1978年

 秋田の田舎に生まれ幼いときから辛酸を嘗めてきた著者は苦学のうえ天下の三高に合格する。ときは昭和4年(1929年)。
  鐘がなる
  鐘がなる
  王城の上に鐘がなる
 入寮早々のストームあけの朝、三高の構内に響き渡る自由の鐘の描写から本書は始まる。
 丸太ん棒を押し立ててのストーム、部屋のデコレーションに苦心惨憺する記念祭、逍遥歌を吟じながら毎夜の如く行われる散歩。三高生に好意を惜しまない京都の人々とのふれあい。
 しかしそんな牧歌的な青春にも暗い影がさしてくる。経済恐慌とファシズムにむかう時代、貧困の中に育った著者が飛び込んだのは学生運動であった。学生自治会から共産青年同盟に。卒業を前にした1932年特高に逮捕された著者は放校処分をうけ愛すべき三高生活に別れを告げる。
 三高の寮生活を丁寧に描いた佳作。著者は三高放校後、治安維持法違反などで下獄、戦後は釧路で労働運動から市会議員を努めた。

《2021/9/4》

おすすめ度 ★★★★☆ 星4個

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