ひかり北地に
戸川幸夫 郁朋社 1987年
動物文学・児童文学の世界で名を馳せた直木賞作家の自伝的小説。
主人公・角目伸太郎は2浪のすえ山形高等学校・理甲に入学。
「ひかり北地に」は山高の寮歌である。
ひかり北地に燃え出でて 星いくたびかめぐりけむ
いまおばしまの陽光に 三年の夢を顧いみる
雪解けの水のいと清く 珠をつらぬる馬見ヶ崎
宇宙の言葉に聴き入りて 久遠の相思うかな
くもれる瞳拭いつつ 真理の泉掬うべき
わがはらからに幸あれと 祈る門途の雪の宵
著者は前書きで以下のように述べる
『私はこの自伝小説をこの寮歌の気持に沿って書いたつもりです。従ってこれは高校生としてはあまり善良ではなかった、というよりも先生方にいわせると”箸にも棒にも掛からなかった”ぐうたらな一落第坊主の思いでを書きつづったものではなく、落ちこぼれなるが故に、その者から見た当時の旧制高校の生活や学寮生活、町の人々との交流、そのころの旧制高校生がどんな多感な日々を送っていたのかを描くのが本旨でした。』
まさにこの言葉どおり、寮生間の友情が描かれるのはもちろん、鮨屋・万貫(のちに万竜)の親父、下宿屋のおげんさん、木村パンの店主など山形の町の人々と主人公との交流が丹念に描かれているのがポイント。高校生は町を愛し・また町も高校生を慈しんだのだ。
ストーム、コンパ、寮祭、桜桃泥棒、軍事教練、試験…。高校生活は夢のように過ぎ、主人公は、しかし、4年で夢破れ退学となる。以前に紹介した『紅萌ゆる』もちょうど同じ頃に三高で高等学校生活を送っているが《同じ》だが《異なる》青春。
土井栄という方の筆による装画がまた、いい。(それにしてもこの時期のネームスクールの校舎のうりふたつぶりといったら。現存する松本高等学校と全く同じにしか見えません)。
《2021/9/7》
おすすめ度 ★★★★★ 星5個