第一夜 はじまりの日
1978年4月、春浅い津軽。北溟寮との初対面
入寮
バスから降りてすぐ、その寮の門があった。バス停の名前は《緑が丘一丁目 北溟寮前》。
その時の私ときたら、訳あって生まれて初めての丸坊主姿。いつものように小さなデイパックだけだったように思う。
初めて目の当たりにした寮は、想像していたようなロマンあふれる建物でもなんでもなく、散文的な4階だてのコンクリートづくり。門からすこしだけ登った先、ロータリーのむこうがわにクリーム色の姿を見せていた。
横にむいた玄関にはグレーのロッカーがいくつか並び、右側にある事務室からは小窓が開いている。その脇には、今はもう見ることもなくなった赤い公衆電話と、なんとなく場違いなマイクが並んでおいてあった。寮生とおぼしき人たちがでてくる。
「ヒョウドウといいます」名前をつげると、やおらそこにあったマイクをつかむや、
『116号室のナカサコさん、同室の方が到着しました。玄関前まできてください』
と呼び出しがかかる。
リノリウムばりの廊下をばたぱた歩く音がして髪の毛を長くのばした小柄な人がちらっとこちらを見ては、戻っていった。後になってわかるんだけど、彼はナカサコさんのお友達でやっぱり関西からはるばる弘前にきていたナカムラさんだった。新入寮生の偵察にでた、というわけだ。
その後にもさもさと現れたおっさんくさい2年生がぼくの同室となるナカサコさん、その人だった。
『君がヒョウドウくんですか。じゃ、部屋に案内します』
すこしだけ関西なまりで、ゆっくりとした口調。歩き方、話し方。マルヒは彼を《ウータン》と呼ぶことにした。
《2001年》