第十五夜 寮室あれこれ

ふたりの共存方法

ごく一般的レイアウト

学生たるもの、書物の10冊や15冊ぐらい持っていないと、さまにならない。机の前の壁には作りつけの本棚があるとはいうものの、教科書だけても、そこはいっぱいになってしまう。そこで、どの寮生もほとんど持っているのが、コープ製のスチール本棚、ということになる。二人部屋で、ふたりがスチール本棚を一本ずつ持っている場合、これは非常によくあるケースなのだが、配置の仕方は、普通このようになる。机の方にむけて本棚を置けば、一番下の段まで使える。

    

 ひとつだけ不便(?)なことといえば、本棚の陰になるので、ベッドのあたりが暗がりになることだが、まあ、たいしたことはない。片方の寮生がまじめな勉強好き、あるいは本好きだと、もう一本本棚が増えることになる。しょうがないので本棚をベッドと壁の間にいれることになる。

険悪部屋

 では、2人がふたつずつの本棚を持っている場合はどうしよう。まず考えられるのは、このようにベッドの間に本棚を置くことだ。この部屋にはいった瞬間に感ずる気まずさ、そう、もう2人は没交渉にならざるを得ない。よって、このような部屋は《険悪部屋》と称される。
 
 ちなみに言い忘れていたが北溟寮の部屋は3室でひとくくりとなっている。下図(寮の平面図)をもう一度見てください。
 101号室から103号室までがワンブロック。101号室の廊下との境、および103号室と104号の間はコンクリートで仕切られていて音を通さない。ところが、101号室と102号室の間、102号室と103号室の間の壁は薄いベニヤなのだ。
 男と女の間には、《広くて暗い川》があるそうだが、101号室の東側とに寝ている男と、102号室の西側に寝ている男の間には、《うすくてせまい板》しかないのである。上記の例の場合、102号室は《両ベニヤ》と呼ばれて一番敬遠される部屋となる。
 なのでまた、《険悪部屋》とて、薄いベニヤ壁を通して、隣室の男の寝息は聞こえるのである。

ホモホモ部屋

 

  もちろん、このように両方のベッドと壁の間に本棚を押し込むこともできる。その場合、ふたりのベッドの隙間はわずかに10センチ以下まで縮まる。よって、このレイアウトの場合は、ホモホモ部屋と呼ばざるを得ない。
 一時、マルヒが2年生、同室のウータン氏が3年の時、ふたりはこのレイアウトを採用した。
 しかも、もうひとつすさまじかったのは、マルヒが洗濯物でも古新聞でもゴミでもなんでも、床に放り出したの対し、几帳面なウータン氏は自分の領域だけ、--まさに部屋の半分だけ、きれいに掃除していたことだ。
 いかにホモホモ部屋といえど、その左右の対比は際だったものがあった。マルヒの側はゴミだらけ、ウータン氏の側は寮の部屋と思えないほどクリーンだったのだ。

スペシャル仕様

ベッドの上にもうひとつベッドを重ねて二段ベッドにするという荒技だ。上のベッドの足のほうは、押入のなかにはいりこむようになる。
 二段ベッド部屋にすると、ずいぶん空間を楽に使えるようになる。ただし、それ相応の技術がないと、二段ベッドは作れない。3階のエゾガワさんとカンノンの部屋がこれを採用していた。

 寮室は2人で使うことが基本だが、さまざまな事情で、ひと階にいくつかは1人が一室を使う場合がでてくる。これを《ひとり部屋》と呼ぶ。
《ひとり部屋》になると、かなり余裕のレイアウトができるようになる。 
 1階でいうとタカナシやイタモトは、どうも、いつも《ひとり部屋》を楽しんでいたような記憶がある。つまりどこかのタイミングで同室を追い出したともいえる。気のせいかもしれないが。
 彼らの部屋はカーペットを敷きつめてあって、ドアを開けたところで上履きのサンダルを脱ぐ仕様となっている。いちばん奥、窓際に足をとったベッドを置くのがこのタイプのパターンである。
 備品であるもう片方のベッドや机の行方は、(もちろん、日本国の持ち物であるが)、この際、聞かないでほしい。
(2001 May)

◆2014年、改造直前の北溟寮にお邪魔した頃。ベニヤ壁をぶち抜いて二部屋あるいは三部屋を一つにするという荒技を見た。いつ頃から実行されたのかは知らないが、やはり寮生数の減少が一因だと思うが。ここでひとこと『後生畏るべし』
◆窓際にあるスチームのバイブ経路は最西端《101・114》から2階・3階・4階にあがり、また下に《102・115》に降りてくくる。スチームがはいりだすとパイプの膨張によって『かきぃん、かきぃん』と特有の音が鳴りだす。《101・114》は寮内で一番早くスチームが効いて、終わるのは一番遅い。逆の見方をすれば最東端の《113・128》は最後にならないとスチームが効かず、一番早くスチームが切れる極寒部屋であった。

《2020/9/16》