第十夜 溟寮お風呂事情

♪湯気が天井から…

アイラブ湯~

さて、晩飯も食ったし風呂でもはいるか、と上の階から寮生がどたどたと洗面器片手に1階に降りてくる。廊下のつきあたり妙に暗くなっているあたりが風呂場への入口だ。
 「ギィィィッ」
ときしむスイング型の戸。
 「げげげっなんだこのサンダルの数。。。混んでるのお、きょうは・・・」

 寮の風呂は、カラン(蛇口)の数からして目安の定員は10人くらい。それ以上のサンダルが脱がれていると混んでるから後にしよう、という風に1階生の私は判断していた。上の階の住人は、また自分の部屋まで戻るのがめんどくさいのでサンダルが10あろうが、15あろうが入ることもあったようだ。
1階生のささやかな特権それは、風呂でもはいろか、と簡単に風呂の混み具合をを確かめられることだ。3階生や4階生の場合と違い 確かめた後、おもむろにタオルと洗面器を持って風呂にむかえばいいのだ。

 確かめる、といえば話は違うが、1階生の裏技としてみそ汁交代確認、というのがあった。平面図を見てもらいたい。例えば102号室からは中庭を通して食堂が見えるのである。みそ汁は給食用のバケツから自分でよそう方式なので、タイミングが悪いと、ジャガイモとかの実は、全くなくなってしまい《実なし》のみそ汁になり果ててしまう。チャンスはなんといっても新しいバケツに交換されてすぐ、なのだ。ここまでいえばおわかりだろう。102号室の窓から見ていて、交換された、とみるや食堂に向かうのである。いま想い出してもなんてセコイ・・・

最後は誰ですか?

いやいや、お風呂の話だった。寮の風呂は原則的に週に3回で夕方5時半くらいから8時半くらいの間にはいる。遅くいくとだんだん湯がぬるくなり悲惨な目にあったりする。なぜか『アイラブ湯~』というらしいが、だれもそんな名前で呼ぶ奴はいなかった。
 さて、浴場の扉を開けていう最初の言葉。溟寮生なら誰でも知ってるその言葉はなんでしょう?
 それは『最後はだれですか?』だ。
 カランは10個しかないので10人以上浴場にいると誰かが余ることになる。そこで北溟寮では先着順の専有方式になっていたのだ。で、『最後はだれ?』と聞いて自分がカランにありつける順番を確認するのだ。

 ところで、このカラン。ほんとうはご覧のとおり12ある。しかし10人しか使えない。図の1と2 または 3と4 の場所は同時に使えないのがおわかりでしょう?いったいだれが設計したんだ、これ?さすがに弘前大学には工学部がないわけである。
 ふたつに分かれた浴槽は、座り込むには深く立つには浅い中途半端な深さで、中腰ぐらいがちょうどいいか。長期休暇の後などは、サビがでて真っ赤な湯になっていることもある。

ハタちゃん

 わたしと同学年だったハタちゃんは、ミックジャガー似のいい男で、ゲイであることを半分くらいカミングアウトしていた。そのハタちゃんによると100人にひとりはゲイだそうで、北溟寮には200人の寮生がいるから自分以外にも もうひとりいるはずだ、といっていた。北溟寮の風呂場が、彼にとって天国のような場所であったかどうかは、聞き逃した。
 マルはゲイでははなかったが、ある4月、風呂ですげぇいい体をした男に見惚れた。新入寮生だと思って名前を聞くと、彼は直立不動になって、
 『ハイッ自分は軍隊で鍛えてきましたからッ』
 聞くと、防衛大を中退して弘大の医学部に入り直した男であった。

桔梗野温泉ほか

寮の風呂は週に3回。となると夏の暑い日とか、バイトで汚れてしまった時とかは、水風呂で洗う根性がなければ銭湯にむかうことになる。歩いて5分くらい四中の横にあった桔梗野温泉は、銭湯とはいえ立派な温泉である。斜め向かいにある食堂・寿松庵については別項で書きます。
 あと、寒沢の土淵川ぞいの『弘前温泉観光ホテル』は日帰り入浴がOKで(普通の銭湯よりちと高かったような気がする)、長期休暇中の午後などに入りにいくと、でっかい風呂を少人数で堪能できて楽しかった。なぜかいつもクロアベと一緒だった記憶が強い。いまネットで調べると、ここは何年か前に廃業してしまったらしい。
 番外としては枡形の先にあった光星温泉(名前違うかも?)。タクシー会社の経営だったような気がするが、ここは終夜営業(だったか、ずいぶん遅い時間までの営業)なのでなんどかそんなときにいった。

(May 10, 2001)

【追記】石山さんよりそれは広西タクシーが営業していた広西温泉だろう、との投書が掲示板にありました。24時間営業だったそうです。

◆北溟寮のことは略して《溟寮》とも呼んだ。《溟寮生》という言い方も一般的。
◆旧サイトではこの『第十夜 溟寮お風呂事情』から日付までクレジットしている。この記事は2001年5月10日。
《更新履歴》には
 -2000年 秋    ウェブページ作成の着想
 -2001年4月20日 文章作成スタート
 -2001年4月25日 初回実験アップロード
 -2001年5月5日  スタート
とあるので、まさにオープン前後に書いた文章である。
《2020/9/12》