第二十三夜 電話

電話・お電話・おお電話

赤電話2台

35-9236 34-9822
……今でも覚えている北溟寮の電話番号である。
各地の大学寮では、電話当番のあるケースが多かったようだ。しかし、北溟寮にはそのシステムがなかった。そこでどうなるかというと、通りかかった人が電話をとって呼び出しをすることになる。

 電話は玄関前と談話室前にひとつずつ。今はもうあまり見ることもなくなった赤電話。もちろん電話をかける際は10円玉しか使用できない。その赤電話の横には呼び出しのために、それぞれマイクが設置されていた。(『玄関前の赤電話』


『一階のマルヒさん、一階のマルヒさん、談話室前に電話です』
てな具合に呼び出しがかかるわけである。
 
 このとき
 (A)かけてきた相手が男性の場合には『……電話です』
 (B)かけてきた相手が女性の場合には『……お電話です』
 (C)かけてきた相手が親の場合には『……おお電話です』
というのがきまりだ。それによって、場合によっては居留守を使うこともできる。
 いっぺんぐらい《お電話》に居留守を使うような男になってみたかったものだが、情けない話ながら、あらためて20年前を想い出してみてもマルヒ宛にかかってきた《お電話》は5年間で数回、と両手で数えられるほどであった。とほほほ。

北溟寮に電話をかける場合は緊急事態を除いて夜10時まで(ひょっとしたら11時までだったかも。思い出せない。ニードヘルプ。)一番よく使われているのが、すなわちお話し中が多いのは、夜の7時から9時ぐらいだろうか。なにせ寮の個室には電話はないので、もちろん携帯もないので、ながながと電話で話す男がいると電話はずっとお話中になる。しかも、もちろん、長電話の相手ときたら彼女であることが容易に推測できるわけで、灰皿などを持ってしゃがみこんで話している奴などを見ると、つい、けっ飛ばしたくなる気持ちになることもあった。

在寮ボード

 寮務委員会室の壁には、在寮ボードがあった。全寮生各自の名前がはいった1センチ×5センチくらいの金属製の名札が階ごとに分かれて全寮生分ならんでいる。表が白、裏が赤になっていて、くるんっとひっくり返せるようになっている。在寮のときは白、出かけるときは赤、にしておくのルールなのだが、なかにはルーズな男もいるので全部信用できるわけではない。

《さよなら北溟寮コンパ》のときにこの名札-階名がはいった青色のもの-をもらってきた。いま、手元にある。

正しい電話の取り方とは?

 われわれ1階生は、基本的に電話をとることに慣れていた。ところが電話に慣れていない寮生(例えば4階生とか、中途の入寮生とか)がとると、これが厄介なことになったりする。

★正しい例★
♪じりりりり、じりりりり
  《お、電話だ》
『はい北溟寮です。』
『もしもし、私 コツチダと申しますが、マコトをお願いします』
『はい、少々おまちください』
  《マイクのスイッチオン、すかさず…》
『2階のコツチダくん、2階のコツチダくん、談話室前におお電話です。』
  《しばし 待つ しかしでてこない…しょうがねーな在寮ボードでも見にいくか、うん?いることになってる》
『2階のコツチダくん、2階のコツチダくん、談話室前におお電話です。』
  《ふたたび待つ。やっぱりいねーか。。》
『すみません、いらっしゃらないようですけど。』
『わかりました、ありがとうございました』
♪がちゃん

★誤っている例★
♪じりりり、じりりり
  《なんだ?電話か?めんどくさいなあ。》
『もしもし』 (←名乗れよ、ちゃんと)
『北溟寮でしょうか?あの私 コツチダと申しますが、マコトをお願いします』
『はい』
  《マイクのスイッチオン。はいってるのか?このマイク》
『ふぅぅぅぅぅぅ!!ごつん、ごつんごつん』 (←大丈夫だって、マイク生きてるぞ)
『コツチダさん、コツチダさん、談話室前にお電話です』 (←コツチダが何階かも知らない?あんたはモグリかい。それに、彼女からじゃねーだろう?!)
  《そのまま、歩み去る。そのままコツチダはこない。電話ほったらかし》(←おいおいっ!待たされているほうはどうなっちゃうんだよ)

 ときたま、受話器がはずれたままの電話を通りがかりに見かけることがある。『ツーツー』となっていればともかく、まだ受話器の向こうの人が待っていたりすると、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

黄色電話

 食堂の入り口わきにもう一台の電話が設置されたのは80年頃だったろうか、こちらは黄色電話で100円玉が使えるタイプだった(『食堂入り口わきの黄色電話』)。ただし、この電話の番号は公表されず、基本的に送信専用に使用された。
 就職活動をした頃、いまお世話になっている企業に何度か電話しなければいけなかった。ところが、人事採用の担当者ときたら、ゆったりゆったり話をするタイプで、100円玉がカシャンカシャンと落ちていくのがどれほど恨めしかったことか。そんな私は、自分が採用担当の仕事をするようになったとき、すぐさまフリーダイヤルを導入したものだ。

電話ボックス

 寮の門をでたところ、バス停のそばに、電話ボックスがあった。この電話について、例の卒寮文集に(ミ)はこのように書いている。(『第九夜 スウィートメモリーズ』参照)
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<寮の横の公衆電話>
誰も話題にしないけど、誰でも知ってるあの公衆電話。そう、あれ、あの電話ボックスのこと。寮の赤色電話では話せないような時に使うのです。
例えば、「あ、オフクロさん、オレ。あのさ、奨学金とめられそうなんだ。ウン、成績悪くてさ。そんなおこんないでよ、オレだってショックなんだから。泣きたいって?泣きたいのはオレの方だよ。ウン、今度はまじめに勉強がんばるからさ、ゴメン……」なんて電話、寮内でははずかしくてかけられないよね。
それから、ほら、好きになった女の子に初めて電話するときなんかもね。「あ、○○さん、僕、メイ寮の××です。あのーー、えーーと、あ、突然だけど、デートしませんか」なんてね。ほーんとあの電話ボックスにはお世話になりました。
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……しまった、マルヒはお世話になったことがない、あの公衆電話。。

インターネット/携帯電話の時代のいま、北溟寮の通信インフラはどうなっているんだろうか??現役寮生諸君、おしえてください。

(July 10, 2001) 

◆《電話、お電話、おお電話》よびだし方式は、なんと東大駒場寮でもおこなわれていたとは(参照 『東大駒場寮物語』)。寮文化伝播力の研究素材か。
◆学生の時に立ち寄った東北大の有朋寮では回り持ちの電話当番があったようですが、この呼び出し方式だったかどうかは聞き漏らしました。

◆談話室前の電話&マイクの写真は見つかりません……。
◆《コインをいれて電話をする公衆電話》は、まさに前世紀の遺物となった感がありますね。

《2020/10/7》

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