第四夜 新歓コンパ

三大コンパ その1

正統コンパ

寮生活にコンパはつきもの。いわゆる合コンではない、正当派(?)の伝統コンパである。マルヒは珍しくも松本での高校生時代にその手のコンパの洗礼を受けてきたので《まあこんなものか》くらいに思っていたが、これで寮生活に嫌気がさして退寮してしまう学生も例年何人かいたほどだ。
 北溟寮の活動の基本単位は階。いつ頃からなのかは不明だが各階はキャッチフレーズがあり、それぞれ《愛と誠の1階》《ビンビンの2階》《痴性と狂養の3階《花の4階》ということになっていた。歓迎コンパも1階から4階まで各階ごとにおこなわれる。
 日程は新入寮生全員が入寮したすぐ次の日ぐらいに設定されるのが普通だった。だいたい20畳ぐらいのスペースがある各階談話室が会場となる。私が暮らしていた1階の談話室には、なぜかコンパ用の畳があってコンパの時だけその畳をひくのが慣例。しかし、その畳といえば迷酒「弘前城」と「ホワイトリカー」35度の匂いがしみついてむちゃくちゃ汚い。 
 一応、つまみはあるのだが基本は酒、酒、酒。談話室の正面に細長い会議室用の机が置かれればそれで準備は終了だ。

出身っ (しゅっしーんっ) 

 どこのだれがはじめたのか定かではないが、弘前の地でのコンパは《出身》ではじまり《出身》でおわる。
その作法とは、まず、どんぶりに酒をついで片手に持つことからはじまる。例えば、新歓コンパの口開けで1階階長がした《出身》は以下となる。
 やおら、
「いくぞぉぉぉ!!」とか「せぇぇぇーーーー」と、本人のかけ声。以下(本人)
「オォォォオ!!」 ドンドンドン(太鼓です)と周囲の人間。以下(周囲)
 (本人)「しゅっしーーーん」
 (周囲)「オォォォォォオ!!」 ドンドンドンドン
 (本人)「秋田県立大館鳳鳴高等学校ッーーーー」
 (周囲)「おおおおお!!」「ナンセンスっっっ」「くたばれーー!!」
    ※※賞賛する声とバカにする声が入り交じるのだ
 (本人)「弘前大学っ人文学部っ経済学科2年っっっっっ--」
 (周囲)「いぇぇぇぇぇぇ!!」「さいていっっ」「ていのーーー」 ドンドンドンドン
    ※※同上
 (本人)「弘前大学っっ北溟寮ぉぉ、愛と誠の1階、124号室ぅぅぅ」
 (周囲)「ひゅぅぅぅっっっ」 ドンドンドンドン
    ※※同上だが、ここは同じ階生が集う《新歓コンパ》なのでバカにする声はなし
 (本人)「同室っっっ人文学科3年 ナカムラマサヤぁぁぁ」
 (周囲)「おおおおおおっっ」「ナンセンスッッ」 ドンドンドンドン
 (本人)「なまえーーー、北溟寮一階階長ッッッヤマモトぅぅミツオぉぉぉぉ」
 (周囲)「おおおおおおおおおっっっ」
 (本人)「新入寮生諸君、入寮おめでとう。諸君らの入寮を祝して、それでは一杯いただきます」
 (周囲)「せーのぉぉっ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、、」
    ※※本人は、それにあわせてどんぷり酒をのみほす多くともワッショイ5回くらいまでで終わるのが望ましい。飲み干したら、
 (周)「おおおおぉぉぉぉっっ」ドンドンドンドン。)

116号室の壁に落書き(アルチュール・ランボーの詩)を書いた


 とまあ、これが《出身》である。
 このセリフ自体は各種バリエーションがあり、上に書いたのはあくまで北溟寮1階の伝統バージョンで、階ごとに違っていたりもする。弘前大学では各サークルなどでこの《出身》をやったりしていたので様々なバリエーションもあるだろう。とはいえ、やはり《出身》といえば寮生がおこなう《出身》にトドメを刺す。必殺である。なんせ場数が違う。

例のパターンとして
 「出身っっっ ××県立……」
 「所属っっっ 弘前大学人文学部……」
 「現在っっ 弘前大学北溟寮……」
 「同室っっ 」
 「本人氏名っっ 」
という風にすすむ方が大勢かもしれない。しかし北溟寮1階ではあくまで上に詳述したとおり《所属》やら《現在》やらはつけない。あれに反すると即、周囲から「もとえっ、もとえっ」と もとえコールがかかり、いちばん最初からやり直さなければならない。 

快調にすすむコンパ

 さて新歓コンパではこの《出身》を階長・副階長をかわきりに101号室の住人から順番にやっていく。もちろん新入寮生ははじめての体験だから人によっては何回やっても間違える奴もいるし、酒が飲めない奴もいる。しかし、実は、この新歓コンパにおける《出身》は、次に控えた水コンのための練習みたいなものなので、ちゃんとできない奴には階長・同室などの上級生が一生懸命、教えてくれる。
 酔っぱらってくると、ときおり芸をはさむ者もでてくる。1階において、なぜか前奏は全て北島サブちゃん《函館の女》なのだ。もちろん口じゃみせん、みんなが以下のとおりやる。
 「♪ちゃちゃちゃ、ちゃんちゃっちゃ ちゃちゃーん、ちゃんちゃっちゃ ちゃちゃーん、ちゃぁぁん ちゃららららん、ちゃちゃちゃ、ちゃちゃっちゃちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃちゃっちゃちゃん はいっ」(JASRAC 非許可)。
アイドルの歌だろうと民謡だろうと唱歌だろうと、この前奏になる。意外と難しい。
《2001》

◆いまの基準でいえばアルコールハラスメント(アルハラ)である。とはいえ、このコンパに限らず寮生はその辺とうまくつきあっていた感もある。ここにたびたび登場するタワケのおっさんことナカムラさんも体質的にはまったく酒は飲めなかったが《出身》はした。マルヒに関していえば、下級生とかに飲酒を強要したことはない。だってもったいねーもん。調子にのって過度に飲むのは…とめなかった。反省。急性アルコール中毒にいたるケースもあったが大抵は医学部の専門課程にいる寮生が判断して危ないとみるや適切な処置をしていた。
マルヒ自身は高校のときのコンパ(公民館でやる。またどこかで語る機会もあろうか)で、前後不覚になって家にかつぎこまれた経験をもつ。それを教訓にしたのか、幸い、北溟寮でそのような醜態を見せることはなかった。

◆愛と誠の1階、この名前はどこからきたのか。有名コミック『愛と誠』(梶原一騎・原作 ながやす巧・作画)は1973年に少年マガジンで連載が開始されている。もしここに由来するとすれば73年以降ということになり、マルヒが入寮した年から最大でたった5年しか歴史を遡れない。その頃1階にいた《年寄り》から『この1階の《愛と誠》はマンガより先なんだ』とかなんとか聞いたようなかすかな記憶がある。真相はわからない。
《2020/8/31》

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